2024年の国内M&A市場は、上場企業間の取引件数が17年ぶりに過去最高を更新するなど 、極めて活発な一年でした。この動きは、日本企業が直面する事業環境の構造的変化への対応を加速させていることを明確に示しています。本稿では、公認会計士およびコンサルタントの視点から、公開データを基に2024年の市場動向を多角的に分析し、経営戦略を策定する上で不可欠なインサイトを提供します。1.データで見る2024年M&A市場の概況(上場企業)まず、マクロな市場動向を定量的に把握します。適時開示情報に基づく2024年のM&Aの主要指標は以下の通りです。総件数: 1,221件(前年比14%増)総金額: 10兆5,397億円(前年比13.9%減)国内案件: 993件(前年比16.5%増)海外案件: 228件(前年比5.5%増)(参照元:上場会社の適示開示、ストライク社)総取引金額は、1兆円を超える超大型案件の不在により前年を下回りましたが、総件数の力強い増加は看過できません 。これは、M&Aが一部の大企業だけの特殊な戦略ではなく、多くの企業にとって事業ポートフォリオを最適化するための経営ツールとして定着しつつあることを示唆しています。2.2024年の動向から読むべき3つの潮流この件数増加の背景には、個別の事情を超えた、市場全体の構造的な変化が存在します。特に注目すべき3つの潮流を解説します。①事業ポートフォリオ最適化と人的資本獲得の加速大企業においては、グローバル競争や市場の変化に対応するため、事業の「選択と集中」を目的としたM&Aが主流となりました。戦略的買収: 半導体業界におけるルネサスエレクトロニクスによる米アルティウム買収(8,897億円) など、サプライチェーン強化や技術革新を目的とした大型案件が実行されました。人的資本の獲得: DX推進が経営の最重要課題となる中、ITエンジニアや専門スキルを持つ人材・組織を確保するための「アクハイヤー(Acqui-hire)」に近いM&Aも活発化しました 。②成長戦略としてのM&AとIPOの補完関係ベンチャー企業のM&A件数は推定3,479件(前年比18%増)に達し、前年比18%増と過去9年間で最高を記録しました。 これは、買い手である大企業と、売り手であるスタートアップ双方のニーズが合致したことにあります。(参照元:中小企業白書2024、上場会社の開示情報を基に推定)買い手(大企業)側には、変化の激しい市場において、革新的な技術やビジネスモデルを自社でゼロから育成するよりも、M&Aによって迅速に獲得したいという強い動機があります。一方で売り手(スタートアップ)側も、IPO(株式上場)のみをゴールとするのではなく、大手企業の潤沢なリソースを活用して事業の成長を加速させるM&Aが、有力なEXIT戦略として確立されていました。この双方の利害の一致が、2024年のベンチャーM&Aの活況を支えたと考えられます。③国家的な課題解決手段としての事業承継M&A上場企業やベンチャーの動向とは別に、日本経済の基盤を支えるのが中小企業の事業承継M&Aです。後継者不足は深刻な社会問題であり、廃業による技術や雇用の喪失を防ぐため、第三者へのM&Aによる事業引継ぎが不可欠となっています。2025年現在、経営者の高齢化問題が喫緊の課題となる中、その重要性はますます高まっています。3. 2025年現在の市場と今後の展望2024年の活況は2025年に入ってからも継続しており、M&Aは引き続き重要な経営戦略であり続けるでしょう。株主や東証からの資本効率改善のプレッシャーを受けてビジネスリスクに応じたリターンを求める流れもこの流れを後押ししています。加えて、2025年に入って議論が本格化した東証グロース市場の上場維持基準の厳格化は、今後のM&A市場に大きな影響を与える見通しです。この制度変更は、主に2つのプレイヤー層に作用します。第一に、未上場のスタートアップです。IPO後のハードルが「10年後・時価総額40億円」から「5年後・時価総額100億円」へと引き上げられることで、M&AをEXIT戦略としてより重視する傾向が、2025年以降は強まる可能性があります。第二に、時価総額100億円以下の既存の上場企業です。これらの企業は基準達成のため、①他社買収によって非連続な成長を目指す「買い手」となるか、②自社の存続のため大手企業の傘下に入る「売り手」となるか、という戦略的決断を迫られるケースが増加すると考えられます。参照元:「資本コストや株価を意識した経営の 実現に向けた対応」:東京証券取引所参照元:「グロース市場における今後の対応」:東京証券取引所参照元:「企業買収における行動指針」:経済産業省まとめ:M&Aの成功確率を高めるために2024年の活況は2025年に入っても継続しており、件数の増加とともにその背景や目的が多様化・複雑化しています。このような環境でM&Aを成功に導くには、事前調査と成立後のPMI(経営統合プロセス)をいかに戦略的に実行できるかが決定的な鍵となります。弊社フラッシュパートナーズは、M&A戦略に精通した公認会計士を擁する専門家集団です。M&A実行前の財務デューデリジェンス(DD)や株式価値算定、そしてPMIの実行支援まで、一貫したサポートを提供し、クライアントの企業価値向上に貢献します。M&Aに関する具体的なご検討事項や、初期段階での課題整理など、どのようなフェーズのご相談でも構いません。貴社の状況に合わせた最適なアプローチについて、専門家がご相談を承ります。下記フォーム、またはページ右上のボタンより、まずはお気軽にお問い合わせください。異なる組織文化、人事制度、業務プロセスをいかに効果的に融合させ、期待されたシナジーを創出するか。M&Aの「実行件数」が注目される今だからこそ、弊社では、その先の「価値創造」を見据えた事前調査と戦略的なPMIの実行が最も重要であると考えています。お問い合わせはこちら、もしくは右上の無料相談から